ナフサショックに対する金融機関と中小企業の温度差——2026年春

今週、愛知と千葉で、まったく違う景色を見た。
金融機関の「窓口」は整っている。でも、その使われ方には地域でも、経営者でも、金融機関の側でも——大きな温度差がある。
知っているか知らないかで、選択肢の数が変わる。今の状況をまとめた。

今週、愛知と千葉で見た「二つの景色」

📍 愛知の工務店社長

資材調達が不安定になってきたことを受けて、工期が延びる可能性を前提に資金計画を組み直すことを決めた。 まだ実害が出たわけではない。でも「備えておかないと、気づいたときには手遅れになる」と判断したのだ。

数字を持っている社長は、動くのが早い。

翌日、千葉で信用金庫の担当者に話を聞いた。ナフサショックで相談が増えているか、セーフティネット保証の動きはどうかと聞くと——

「そんなことで動いている中小企業は、まだいないよ」
千葉県内・信用金庫担当者(2026年5月)

唖然とした。

※ これは千葉県内の一金融機関・一担当者の対応です。千葉全体や信用金庫全体を代表するものではありません。同じ千葉でも、千葉市が積極的に相談窓口を整備していることは本文で後述しています。

資材不足・調達難——建設業・製造業の現場で起きていること

全国で何が起きているか——数字が示すこと

全国商工会連合会の集計では、3月25日から4月10日の約2週間で 122件 の相談が入っている。内容は具体的だ。

📋 寄せられた相談の内容(抜粋)

塗装に必要なシンナーが入手困難。仕入れ価格が倍

商品を包む袋の価格が4月から30%アップ

「断熱材・接着材・食品トレーの不足や値上がり」

4月の景況調査(帝国データバンク)では、全10地域が2ヶ月連続で悪化。 小規模企業の景況DIは2022年8月以来の「30台」に低下した。 建設・農林水産・製造では、調達コスト増と供給制約が重なっている。

問題の広がりは一部地域にとどまらない。宮城・新潟・神奈川・長野・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島・山形など、 少なくとも10県以上で4月下旬に同種の調査・分析が連続して公表されている。 全国のサプライチェーン問題として認識されている証拠だ。

📅 2026年春・主な動きのタイムライン

金融機関はもう動いている——3つのルートを整理する

① 日本政策金融公庫:全国152支店で窓口を拡充済み

3月23日、日本公庫は全国152支店で特別相談窓口を拡充した。 使える制度は「経営環境変化対応資金」で、条件はこうなっている。

ただし、今回確認できた公開情報では、日本公庫の全国での相談件数・融資実行件数の集計は公表されていない。 「制度は整っている、動いているかどうかは見えにくい」というのが現状だ。

② 金融庁・民間金融機関:「貸し手の準備」はかなり進んでいる

3月27日、金融庁は金融関係団体に対して 「資金繰りに重大な支障が生じないよう、きめ細かな支援を」と正式に要請した。 これは地味に見えて重要だ。金融庁が動くと、各銀行は「断りにくくなる」方向に動く。 つまり今は、追加融資やリスケの相談をしやすい空気が制度的に作られている局面だ。

民間金融の実動として最も具体的なのは埼玉県だ。4月27日の県戦略会議資料によれば——

最後の一行が重要だ。「制度がある」ではなく「融資が出た」という記録が残っている。 他の地域でも同様の動きはあるはずだが、公表している金融機関が少ないだけで、動いていないわけではない。

③ 自治体ルート:入口として一番使いやすい

自治体系は、今回もっとも「見えやすく」動いている。敷居が低く、まず制度を確認するだけなら電話一本で話ができる。

地域によって、切迫度は大きく違う

全国一律の統計がないため、公開データが比較できる地域を並べた。切迫度は「財務支援の必要性」と「窓口利用の立ち上がり」を合わせて評価している。

地域 切迫度 主なシグナル・特徴
岡山県 製造業の43%が「既にマイナス影響あり」。プラスチック・シンナーの調達困難が具体的。5月1日から「中東情勢緊急対応」融資を創設。全国最速の制度化。
山形県 製造業の24.3%に調達リスク・約488社。段ボールから自動車部品まで波及。需給ショックの深さは全国でも強い。
長崎県 中高 相談件数はまだ3件だが、内容は「シンナー・プラスチック・梱包資材の不足」と具体的。5月13日から緊急支援開始予定。
神奈川県 4月14日時点で県窓口2件・KIP系4件。横浜商工会議所への相談も14件報道あり。融資志向の問い合わせが先行。
埼玉県 民間金融の前線行動が最も見える地域。川口信用金庫は危機対応融資1件・1,000万円を公表。
愛知県・名古屋市 県内約100カ所の相談網・信用保証協会特別窓口など、アクセス網が最も厚い。製造集積地ゆえ潜在需要は高い。
千葉市 市と産業振興財団の二本立て窓口を設置。公表された相談件数は未開示だが導線は明確。

※ 切迫度は公開データをもとに筆者が評価。全国47都道府県の統一統計は2026年5月時点で未公表。

建設業は「構造的に」早く動くべき業種

建設業は「利益が出ているのに金がない」が起きやすい業種だ。以下の要素が全部絡む。

ナフサ系資材の価格が不安定になると、「工期ズレ」と「原価膨らみ」が同時に来る可能性がある。 「シンナーが調達できない」は資材の問題だが、それはそのまま工期→入金→資金繰りの問題に直結する。

愛知の工務店社長が資金計画を組み直したのは、この構造を分かっているからだ。 千葉の信用金庫の担当者が「まだいない」と言った背景には、逆に言えば、 動けていない建設業の経営者が多いという現実がある。

建設業の資材不足・深刻な調達難の実態

全国の現状をひとことで言うと

「窓口は整った。でも使っている企業はまだ少ない。そして金融機関の側にも温度差がある。

岡山・山形のように供給・価格ショックの実体が先行している地域。神奈川・長崎のように相談件数は少なくても内容が具体化している地域。愛知・千葉のように窓口の網は厚いが公開実績がまだ見えない地域——三つの顔がある。

全国の実像は、「まだ大量借入の局面ではないが、相談と制度照会が先行して増えている段階」と読むのが妥当だ。

今できること——むずかしい話ではない

銀行は、余裕があるうちに来た会社と、追い詰められてから来た会社を見分けている。 「困る前に把握しておく」——それだけで選択肢の数が変わる。

合同会社Properly 佐藤 崇
税理士事務所10年・事業再生を手がける上場会社で財務担当を経て、建設業・中小企業の資金繰り管理を外部スタッフとして担っています。 年商7〜10億円規模の工務店経理を一人で担当した経験があり、現場別損益・未成工事・銀行対応まで一通りを実際にやってきました。
建設業の資金繰り管理・銀行対応支援について  / 建設業の経理処理支援について